明るすぎる海

これらの文章はすべてフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。

退職

退職することになった。21年の四月からなので三年弱勤めたことになる。当たり前だが3年間毎日会社に通った。これはかなりすごいことで、大学一年目は2日しか行っておらず成績が2217人中2211番だったし(下の6人がやばすぎる)、大学三年目は公園で小学生と野球をしていたら、日ハムの選手のガチ息子がいて、小3のくせに90キロくらいのストレートを投げていたが大人の膂力で粉砕し、キャッチボールをしたら硬球がトンネル効果のせいでどう考えても絶対にすり抜けるはずのない金網をすり抜けて違法駐車していた営業車を凹まし、「脱獄に応用できるんじゃないか...?」などと思っていたら近くでのんきにタバコ吸っていた運転手が真っ青になって駆け寄ってきて、「それ(硬球)、子供の頭にあたったら、事だよ!?」と言われ、でもあいつの親父プロだしな...と反論するわけにもいかず、一緒にいた同級生は泣きそうな顔で平謝りしていたが、おれは高校の合格発表の当日に親父がコンビニで隣の車にカーブミラーめり込ませたときに絶対に謝らなかったので、掲示板みて胴上げされたあとに「なんで謝らなかった?」と中国人バイトを怒る感じで質問をしたら、「ああいうときに謝ると......不利になる」とトリビアのナレーションされて納得した経験から、やはり真っ青な営業マンの前でもカップ麺のふたの店主くらい腕を組んでいたが、去り際に「お金の請求いくかもしれないから、親御さんに連絡だけしとけよ」と言われ、親御さんに電話したらちょうど実家の巨大な犬が何の罪もない女子大生に噛みついて危うく保健所送りになりかけたため、他人に損害を与えたときにマックス1億出る保険に入ったばかりだから何も心配しなくてもいい、と言われてそれから1週間くらい芝生で仰向けになって雲を見ながら1億の使い道を考えていたけど、結局電話はこなくて舌打ちしたくらい大学に縁がなかったのによく毎日会社には通ったもんだと思う。職場ではおれが退職することは課長しか知らず、しかし課長がこっそりリーダーに話してくれて、リーダーはこっそりボスに話してくれて、それは助かったのだが、おれはおれで後輩にだけこっそり話しており、全員がすべてを把握しているのにお互い何も知らない体で後輩だけがいつおっぱじまるのかと常にハラハラしている謎のライアーゲーム2日だけあったが、さすがに今日面談があり、恩を仇で返してすみませんといって、ボスにはぶん殴られる覚悟をしていたが、ボスは卓球部の体格なのでおれとは身長も体重も違いすぎることもありそれはなく、やはりみんな大人でわりと粛々と事はすすんで今では落ち着いている。職場の他の人はまだ何も知らない。ちょうどパソコンの交替のタイミングがきており、おれのパソコンは職場でいちばん古いのだが、どうせ辞めるので交替の提案を無視し続けていたら、担当のKさんというおばさん(というと失礼だが)が「パソコンいらないんですか?絶対に変えたほうがいいですよ?」と直談判に来たので、「コイツに愛着が湧いてしまって...」と愛車が感情を持ってしまった人の演技をし、そういうおれのパソコンは熱暴走でファンの部分が溶けた接着剤かなにかでベトベトになっており、席替えのときにどうしてもデスクにこびりついた黒いカスがとれず、後からその席にきた人が首をかしげながらランチョンマットみたいなやつを敷かざるをえなかったくらいベトベトなパソコンに愛着を持っている狂人だと思われるはめになったが、この誤解は近日中に解けるはずである。あと、退職届を出した次の日(昨日)に急に会社の制度が変わり(なんで?)、一年間休職してから退職か復職を選べるようになったので、急遽休職に変更する可能性が出てきたが、東京に引っ越すし、100%辞めることになるので1年間保険料払ってもらうのもなんだか申し訳なく、何より送別会をやってくれるとリーダーがいってくれていて、どうせまたいつもの松阪牛の店なので、辞めるのか戻ってくるのか50:50なやつにみんなで松阪牛を食わせて花束渡す会にどんな顔して出ればいいんだよとは思うが、会社の制度もリストラの一環で、ようは遠回しに辞めたいやつは辞めてくれってことなので遠慮せずに使えるもんは使っていこうと思い、希望は出した。もし1年後に食いっぱぐれてこっちに戻ってくることになったら、復帰初日に全員に松阪牛を一切れずつと花びらを一枚ずつ返却して「その節は...」と頭下げる挨拶回りを絶対にやろうと思う。けど、食いっぱぐれたら新宿の中華屋で厨房やると思うので、やはり絶対に戻ることはないんだろうなとも思うけれども